2024年11月15日(金)講演会が開催されました:「マレーシアにおける民族カテゴリーをめぐる思惑 ――なぜオラン・アスリは消滅しないのか」信田敏宏 (国立民族学博物館)

2024.11.18
お知らせ日本語研究活動
海域アジア・オセアニアプロジェクト東京都立大学拠点では、以下の日程で講演会を開催いたしました。
詳細は以下の通りです。
日時:2024年11月15日(金)17:00-19:00
会場:東京都立大学南大沢キャンパス1号館103教室
講演者:信田敏宏(国立民族学博物館)
講演タイトル:マレーシアにおける民族カテゴリーをめぐる思惑 ――なぜオラン・アスリは消滅しないのか
講演要旨:
マレーシアは、インドと中国という二大文明のはざまに位置し、太古より東西交易の要衝の地、いわゆる海のシルクロードの中継地として栄えてきた。当時からマレー半島には、多様な民族が行き交い、通り過ぎる者あり、来訪する者あり、そして定住する者もいた。混沌とした民族の往来は、大航海時代、植民地時代、日本による占領期を経てもなお、連綿と続き、現在に至っている。こうした人々の移動は、歴史の中に点在するものではなく、つながった線となって今に至っていると考えられる。
マレーシアといえば、「多民族国家」という枕詞がつきものであるが、本講演では、マレーシアにおける多民族共生について、ブミプトラ政策に焦点を当てて考察する。ブミプトラ政策とは、イギリスからの独立以降、1965年のシンガポール分離独立と1969年の人種暴動を経て1970年代初頭に開始された新経済政策である。
本講演では、ブミプトラに属するマレー半島の先住民、オラン・アスリを取り上げる。ブミプトラとは、「土地の子」という意味で、ブミプトラのカテゴリーには、先住民族である「マレー人」や「オラン・アスリ」などの民族が属し、一定の優遇措置が施される。しかし、オラン・アスリはマレー人以外のブミプトラ(「他のブミプトラ」)と位置付けられ、マレー人と同等の待遇とは言い難い状況が続いている。こうした状況に対して、オラン・アスリとサバ州・サラワク州の先住民は連携し、自らを「オラン・アサル」と名乗り、先住性を主張し、先住民としての権利を求めている、というのが今日的状況である。
本講演では、ブミプトラと非ブミプトラの間の分断や、ブミプトラ内部の民族の分断や階層性、そしてオラン・アスリ内の民族の流動性や動態性を示しながら、多民族国家のなかで、時代・社会・政治に翻弄されながらも、それぞれの民族に見え隠れする思惑を紐解くとともに、人口が極めて少ないオラン・アスリがいまだ消滅せず存在し続ける要因について考察する。