海域アジア・オセアニア研究
Maritime Asian and Pacific Studies
東京都立大学拠点

文字サイズ

2023年3月5日:講演会「環境アセスメントの人類学と学際的研究――わが風水研究の足跡を辿りつつ」 渡邊欣雄(東京都立大学名誉教授)を開催しました

2023年3月5日:講演会「環境アセスメントの人類学と学際的研究――わが風水研究の足跡を辿りつつ」 渡邊欣雄(東京都立大学名誉教授)を開催しました

画像準備中

2023.4.20

研究活動


 

 海域アジア・オセアニア研究プロジェクト東京都立大学拠点の研究活動の一環として、渡邊欣雄氏(東京都立大学名誉教授)を招いて講演会を開催しました。このイベントは東京都立大学南大沢キャンパスの会場とウェブ会議システム(Zoom)を併用するハイフレックス方式で行われました。

 

日時:2023年3月5日(日)16:00-18:00

 

講演会:「環境アセスメントの人類学と学際的研究――わが風水研究の足跡を辿りつつ」 渡邊欣雄(東京都立大学名誉教授)

 

 本講演で渡邊欣雄氏は、学際的で国際的な標記の研究に至った経緯を説明しつつ、類種の考え方=思想や世界観が時間・空間を超えて広く普及してきたことを紹介した。

 その初期に、氏は地理学と文化人類学を架橋する研究としての「現地人の地理学」の研究を志していたという。氏の院生時代(196975)には、地理学は現地人の知識を対象とせず、また文化人類学は現地の環境観・自然観を、あまり相手にしていなかったからである。

 氏の調査は初期には沖縄であり、「沖縄の世界観」について学術誌に発表していた。いわゆる天上他界観や海上他界観に関する先行研究の整理と、調査に基づく研究だった。その反響は大きく、あるコメントを受けて類種の思想や世界観が東南アジアにもあるとわかり、また戦前の朝鮮にも類種の先行研究があることを知る幸運に恵まれたという。その後行った氏の台湾調査でも、体系的な環境に対する思想が存在することが判明した。それが現地人の説く環境アセスメント(環境影響評価)としての風水思想だった。現地人のこうした自然や環境に対する思想を知るや、氏は即座に学際的な風水研究を組織し(198993)、人類学を超えた研究領域までに拡大していったとする。

 こうした学術環境下で、風水思想発祥の思想史を、中国大陸での調査や文献研究により徐々に復元し、中国国内はもとより東南アジア、韓国・朝鮮、沖縄、日本などに風水思想が伝播していったことを、各地域の地理的・歴史的事例を挙げながら解説した。

 風水は体系的な現地人の環境に対する影響評価の思想であり、それは中華文明の及んだ東アジア・東南アジア地域に共通した考え方だという。すなわち現地の地形・地質・水系・気候・動植生などが、人の造る都市・村落、家屋、墳墓などに影響を与えるという独特な影響判断で、グローバルな思想としての性質を持つが、同時に各地域には独自の環境影響評価法も存在しており、ローカルな知識をも併せ持っていることは注意すべきだとする。

 最後の質疑応答では、氏が考えた風水研究の学術用語や概念が、「風水」とは呼ばない現地にどれほど適用可能なのかなどの、活発な議論が行われた。