2025年11月7日(金)講演会開催のお知らせ:「ヒトは食に何を求めているのかー台湾の漁港で食べる刺身からの一試論」(仮)稲澤努(尚絅学院大学)

2025.10.22
お知らせ日本語研究活動 New
海域アジア・オセアニアプロジェクト東京都立大学拠点では、以下の日程で講演会を開催いたします。
詳細は以下の通りです。
日時:2025年11月7日(金)17:00-19:00
会場:東京都立大学南大沢キャンパス1号館206教室
講演者:稲澤努(尚絅学院大学)
講演タイトル:ヒトは食に何を求めているのかー台湾の漁港で食べる刺身からの一試論(仮)
講演要旨:
ヒトは栄養補給だけを目的に食事をするわけではない――これは文化人類学に親しんだ者であれば(そうでなくとも)、数多の事例から容易に説明できる自明のことである。
本講演で主に取り上げるのは、台湾のある漁港で提供される刺身である。この漁港を訪れる台湾人観光客は、そこで刺身を食している。「フードツーリズム」や、それを念頭においた「テロワール」概念など、観光の目的の一つとしての「食」をめぐる人々や社会の動向は、近年、一般社会でも学界でも注目されてきている。そのため、観光客が漁港で刺身を食べるという行為は、少なくとも我々日本人にとっては、きわめて自然なことのように思われる。
しかし、かつて台湾においては、魚を生で食べる習慣はほとんど存在せず、海水魚を食べる文化も限定的であった。台湾におけるマグロ漁・カジキ漁・カツオ漁の拡大は、日本による植民地統治と切り離しては語れない。また、寿司や刺身の流行にも日本の影響が大きい。新鮮な魚を求めて漁港を訪れ、そこで食事を楽しむという習慣は、日本の影響を受けて形成されたといってもよいだろう。
ところが、当該漁港で提供されているサーモンは、この漁港はおろか、台湾で水揚げされたものですらない。もちろん日本産でもない。にもかかわらず、なぜ台湾の漁港でサーモンの刺身が観光客に積極的に提供されているのだろうか。
そもそも、台湾の漁港における生食の習慣は、いつ・どこから・どのように広まったのか。また、この漁港に暮らす人々は、いつからそれらを食するようになったのか(あるいは食していないのか)。現段階では、それらを明らかにする資料はまだ十分に収集できていない。
本講演では、まず試論として、現在までに得られた資料をもとに、台湾においてマグロおよびサーモンの刺身が定着してきた経緯を概観する。そのうえで、なぜそれがこの漁港で提供され、食されるのかという問いを手がかりに、「人は食に何を求めているのか」について考察を試みたい。